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会社法監査約20分

大会社に該当した場合、いつから監査が必要ですか?

大会社の判定時期と初回の会社法監査が必要となる事業年度を時系列で整理

まず押さえるべき時系列

時点会社法上の位置づけ実務対応
期末資本金・負債の見込み値を把握会計監査人候補の選定を始める
定時株主総会貸借対照表の承認・報告により大会社該当が確定会計監査人選任議案、必要な定款・登記対応
翌事業年度の計算書類初回の会社法監査対象監査計画、棚卸立会、決算体制整備

01. 結論:初回の会社法監査は「大会社になった期の翌期」から必要になるのが基本

  • 大会社に該当した場合に、いつから会社法監査が必要になるのか。実務上の答えは、原則として「大会社の判定根拠となった貸借対照表の事業年度そのもの」ではなく、「その次の事業年度の計算書類」からです。たとえば3月決算会社で、20X1年3月期末の貸借対照表において負債の部の合計額が初めて200億円以上になったとします。この場合、20X1年3月期の計算書類について、後から会計監査人を選任して会社法監査を受け直す、という整理には通常なりません。20X1年6月頃の定時株主総会で20X1年3月期の貸借対照表が承認または報告され、その結果として大会社に該当することが確定します。そして、そこから会計監査人の選任等を行い、20X2年3月期の計算書類について会社法監査を受ける、という流れになります。
  • この点は、期末日時点の数値だけを見て判断すると誤解しやすいところです。会社法の大会社判定は「最終事業年度に係る貸借対照表」を基準に行われます。ここでいう最終事業年度に係る貸借対照表は、実務上、定時株主総会で承認または報告された貸借対照表を指します。したがって、期末決算が締まり、決算書の数値が固まっただけでは、会社法上の大会社該当性が直ちに確定するわけではありません。定時株主総会を経て、会社法上参照される貸借対照表となって初めて、翌期の機関設計や監査対応に影響してきます。

02. 大会社とは何か:資本金5億円以上、または負債総額200億円以上の会社

  • 会社法上の大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である株式会社、または最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます。どちらか一方を満たせば大会社です。資本金基準と負債基準のいずれかに該当すれば足り、売上高、従業員数、利益、純資産額、上場・非上場の別は、大会社該当性の直接の判定基準ではありません。
  • 大会社に該当すると、会社法上、会計監査人の設置義務が生じます。会計監査人とは、公認会計士または監査法人でなければならず、会社の機関として計算書類等を監査します。上場会社の金融商品取引法監査とは制度目的や監査対象書類が異なりますが、会社法監査も外部専門家による法定監査であり、株主・債権者など利害関係者の保護を目的とする重要な制度です。
  • 公開会社である大会社については、原則として監査役会および会計監査人を置く必要があります。ただし、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、機関設計のルールが異なります。非公開会社である大会社であっても、会計監査人の設置義務は生じます。したがって、「非上場だから会社法監査は不要」、「株式を譲渡制限しているから会計監査人は不要」とは限りません。非上場・同族会社であっても、資本金または負債の規模が基準を満たせば、会社法監査の対象になります。

03. 判定のポイント:「期末に基準を超えた日」ではなく「定時株主総会後」に効いてくる

  • 大会社の開始時期を理解するうえで最も重要なのは、「最終事業年度」という言葉です。会社法は、大会社かどうかを、単なる試算表や月次決算の数字ではなく、最終事業年度に係る貸借対照表によって判定します。この貸借対照表は、通常、定時株主総会で承認されたもの、または会計監査人設置会社など一定の場合に定時株主総会で報告されたものを意味します。
  • たとえば、20X1年3月31日時点では負債総額が200億円を超えているとしても、20X1年4月1日の時点で当然に会社法監査が始まるわけではありません。4月から5月にかけて決算手続を行い、取締役会で計算書類を承認し、監査役等の監査を受け、定時株主総会に提出または報告します。その総会で当該貸借対照表が承認または報告されることで、会社法上の「最終事業年度に係る貸借対照表」として機能し、大会社該当性が明確になります。
  • このため、実務上は「期末で基準を超えたから、当期の計算書類に急いで会計監査報告を付ける」というよりも、「定時株主総会で基準超過が確定するため、その総会で会計監査人を選任し、次期の計算書類から会社法監査を受ける」という整理になります。もちろん、任意で監査を受けている会社や、上場準備・金融機関対応・親会社の連結監査等により別途監査が入っている会社では、実務の見え方が異なる場合があります。しかし、会社法上の大会社該当による初回法定監査という観点では、翌期から必要になると整理するのが基本です。

04. 3月決算会社の具体例:20X1年3月期で基準超過した場合

  • 具体例で確認します。ある3月決算会社が、20X0年3月期までは資本金5億円未満、負債総額200億円未満であり、大会社ではなかったとします。その後、事業拡大や借入増加により、20X1年3月期の貸借対照表で負債総額が200億円以上になりました。この場合、20X1年3月31日の期末時点では、社内的には「大会社基準を超えそうだ」と把握できます。しかし、会社法監査の対象となる年度は、20X1年3月期ではなく、原則として20X2年3月期です。
  • 流れとしては、まず20X1年3月期の決算を行います。この20X1年3月期は、まだ会計監査人設置会社でなかったため、原則として会計監査人による会社法監査は不要です。次に、20X1年6月頃の定時株主総会で、20X1年3月期の計算書類が承認または報告されます。この貸借対照表で負債総額200億円以上であることが確認されるため、この時点で会社は大会社に該当することになります。
  • そのため、同じ定時株主総会において、会計監査人の選任議案を上程するのが通常です。必要に応じて、機関設計や定款の記載、監査役会設置の要否、登記事項、監査契約、報酬決定、監査役等との連携体制を整備します。そして、20X1年4月1日から20X2年3月31日までの事業年度、すなわち20X2年3月期の計算書類が、初回の会社法監査の対象になります。
  • ここで注意したいのは、初回監査の対象期間自体は20X1年4月1日から始まっている点です。会計監査人の選任が20X1年6月の定時株主総会である場合、監査人が正式に就任する時点では、すでに対象事業年度が数カ月進んでいます。法的な整理としては翌期監査で足りますが、実務上は監査計画、内部統制理解、棚卸立会、期中取引の検証、システム・会計方針の確認を早期に進めなければ、初回監査の負担が大きくなります。

05. 会計監査人の選任と登記:定時株主総会での対応が中心になる

  • 会計監査人は、会社法上、株主総会の決議によって選任します。大会社該当が見込まれる場合には、基準超過が判明した決算の定時株主総会で、会計監査人選任議案を準備しておくことが実務上重要です。選任議案を出すには、候補となる監査法人または公認会計士との事前協議、監査受嘱の可否、独立性、監査報酬、監査チームの体制、監査契約の前提条件などを確認する必要があります。
  • また、会社の機関設計によっては、会計監査人の設置だけでなく、監査役、監査役会、監査等委員会、指名委員会等との関係も確認する必要があります。公開会社である大会社では、原則として監査役会と会計監査人を置く必要があります。非公開会社であっても会計監査人の設置義務はありますが、既存の監査役の権限、定款の定め、登記事項、総会議案の組み方には注意が必要です。
  • 会計監査人は登記事項でもあるため、選任後は所定期間内に変更登記を行う必要があります。登記実務では、会計監査人の氏名または名称、就任承諾、資格など、必要書類を整える必要があります。定時株主総会の直前になってから対応を始めると、候補者選定、総会参考書類、登記書類、監査契約のいずれかで遅れが生じやすくなります。そのため、期末数値で基準超過が見込まれる段階、できれば決算日前後から準備を進めるべきです。

06. 初回監査で問題になりやすい実務論点

  • 初回の会社法監査では、単に監査法人を選任すれば足りるわけではありません。監査人は、計算書類に重要な虚偽表示がないかを確認するため、会社の事業内容、会計処理、内部統制、決算プロセス、重要な契約、在庫、固定資産、引当金、税効果、関係会社取引などを理解し、監査手続を設計します。初回監査では過年度の会計処理や期首残高の検証も必要になるため、通常の継続監査よりも負担が大きくなります。
  • 特に注意すべきなのが棚卸立会です。在庫を保有する会社では、監査人が期末棚卸の実施状況を観察することが重要な監査手続になる場合があります。監査人の選任や契約が遅れ、期末棚卸に立ち会えなかった場合、代替手続で対応できるかが問題になります。会社法監査が翌期から必要になると分かっているのであれば、初回監査対象年度の期末を迎える前に、棚卸計画や拠点情報を監査人と共有しておく必要があります。
  • また、月次決算の精度も重要です。会社法監査では、期末だけ数字を整えるのではなく、年間を通じた取引記録、証憑管理、承認フロー、会計方針の一貫性が問われます。負債200億円基準で大会社になった会社では、借入金、社債、リース債務、未払金、引当金、デリバティブ、保証債務、偶発債務など、負債関連の論点が増えていることが多く、監査対応に必要な資料も多くなります。経理部門だけでなく、財務、法務、事業部、システム部門を巻き込んだ準備が必要です。

07. 期中増資や負債増加の場合:その場で即時に会社法監査が始まるわけではない

  • 期中に増資を行い資本金が5億円以上になった場合や、借入・社債発行により負債が200億円以上になった場合、「その日から会社法監査が必要なのか」と疑問が生じます。原則的な考え方としては、期中の増減そのものではなく、最終事業年度に係る貸借対照表に計上された金額で判断します。そのため、期中に基準を超過しても、直ちにその期の計算書類が会社法監査の対象になるわけではありません。
  • ただし、これは「準備を後回しにしてよい」という意味ではありません。期中に基準超過が明らかで、期末にも基準を満たす可能性が高い場合には、次の定時株主総会で大会社となり、そこから会計監査人設置義務が生じる可能性が高くなります。監査法人の選定には時間がかかりますし、会社側の資料整備、内部統制、決算スケジュールの見直しにも相応の準備期間が必要です。特にIPO準備会社、M&A後に負債が増えた会社、ファンド傘下で借入が大きい会社、急成長スタートアップで大型増資を行った会社では、基準超過を予測した段階で早めに対応すべきです。
  • なお、逆に大会社基準を下回った場合も、直ちに監査義務が消えるわけではありません。大会社であった会社が、ある事業年度の貸借対照表で資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満となったとしても、その貸借対照表が定時株主総会で承認または報告されるまでの間は、従前の最終事業年度の貸借対照表に基づき大会社として扱われます。したがって、監査不要となる時期も、やはり定時株主総会後に効いてくると整理するのが実務上分かりやすいです。

08. 設立時から大会社の場合:最初の事業年度から注意が必要

  • 例外的に注意したいのが、設立時から資本金5億円以上である会社です。会社成立後、最初の定時株主総会を経ていない場合には、設立時の貸借対照表を基準に大会社該当性を判断する場面があります。そのため、設立時資本金が5億円以上の株式会社では、最初の事業年度から大会社としての機関設計や会計監査人の設置を前提に考える必要があります。
  • また、会社分割、株式移転、合併、事業譲受などの組織再編に伴って、大規模な資産・負債を承継する会社でも、設立時または初年度から監査対応が問題になることがあります。単純に「初回の定時株主総会後から準備すればよい」と考えると、監査人の就任、期首残高、内部統制、会計方針の整備が間に合わない可能性があります。
  • 設立時から大会社に該当するかどうかは、設立手続、資本金、資本準備金、承継負債、事業計画、定款、機関設計、登記の段階で確認すべき事項です。特に新設会社を持株会社やSPCとして利用する場合、資本金や負債の設計によって思わぬ会社法上の義務が生じることがあります。

09. 実務対応チェックリスト

大会社該当が見込まれる会社は、まず期末見込みの資本金と負債総額を確認

負債総額については、貸借対照表の負債の部に計上される金額の合計額で判断するため、単なる借入金残高だけでなく、買掛金、未払金、引当金、リース債務、社債、その他の負債を含めて確認します。

初回監査対象年度を整理

基準超過が見込まれる事業年度、その計算書類を承認または報告する定時株主総会、会計監査人を選任する時期、初回監査対象となる事業年度を時系列で並べると、社内説明がしやすくなります。

監査法人または公認会計士の候補選定を早期に開始

監査人は、独立性や受嘱リスクを確認したうえで契約可否を判断するため、会社が希望すれば必ずすぐに就任してもらえるわけではありません。事業内容、グループ構成、海外拠点、会計システム、決算体制、内部統制の状況によっては、受嘱判断に時間を要します。

社内体制を整える

具体的には、決算早期化、勘定科目残高の明細整備、重要契約の管理、稟議・承認フロー、在庫管理、固定資産台帳、関連当事者取引、税務ポジション、連結パッケージ、取締役会・監査役への報告体制などを点検します。会社法監査は経理部門だけのイベントではなく、会社全体の管理体制を外部専門家に説明できる状態にするプロジェクトです。

10. まとめ:法的な開始時期と実務上の準備時期を分けて考える

  • 大会社に該当した場合の会社法監査は、原則として、大会社基準を満たした貸借対照表の事業年度の翌事業年度の計算書類から必要になります。3月決算会社であれば、20X1年3月期の貸借対照表で初めて基準を満たしたとき、20X1年6月頃の定時株主総会で大会社該当が確定し、20X2年3月期の計算書類から会計監査人監査が必要になる、という流れです。
  • 一方で、実務上の準備はそれより前から始めるべきです。初回監査は、監査人の選任、契約、棚卸立会、期首残高、内部統制、決算体制、総会議案、登記など、多くの作業が同時並行で発生します。「翌期から監査だから、翌期末までに対応すればよい」と考えると、初回監査に必要な証拠や手続が不足するおそれがあります。
  • したがって、正しい実務対応は、法的には「翌期の計算書類から監査が必要」と整理しつつ、準備は「基準超過が見込まれた段階から前倒しで始める」ことです。資本金5億円または負債総額200億円という基準は、会社の成長や資金調達、組織再編によって意外に早く到達します。大会社への移行は、単なる監査コストの増加ではなく、会社のガバナンスと決算信頼性を一段引き上げるタイミングとして捉えることが重要です。

付録:初回監査に向けた準備項目

項目確認内容
大会社判定資本金5億円以上、または、負債の部合計額200億円以上に該当するか。
初回監査年度基準超過年度、定時株主総会、会計監査人選任、初回監査対象年度を時系列で整理したか。
監査人選定監査法人・公認会計士の候補と、独立性、報酬、受嘱可否、監査スケジュールを確認したか。
総会・登記会計監査人選任議案、必要な定款確認、登記書類、就任承諾等を準備したか。
決算・内部統制証憑、残高明細、棚卸、固定資産、重要契約、関連当事者、会計方針を整備したか。

REFERENCES

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