会社法監査と金商法監査の違いを一覧で比較
| 比較項目 | 会社法監査 | 金商法監査 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 会社法 | 金融商品取引法 |
| 主な目的 | 債権者を含む利害関係者に対し、計算書類等の信頼性を確保する | 投資者の投資判断に用いられる財務情報の信頼性を確保し、資本市場の公正性を支える |
| 代表的な対象会社 | 大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、任意に会計監査人を置く会社など | 上場会社を中心とする有価証券報告書提出会社など |
| 主な監査対象 | 計算書類、附属明細書、一定の場合の連結計算書類 | 有価証券報告書等に含まれる連結財務諸表・財務諸表など |
| 情報の提供先 | 株主総会に向けた招集通知・計算書類等、会社法上の公告・備置など | EDINETを通じた公衆縦覧など |
| 内部統制監査 | 会社法上、J-SOX型の内部統制監査は求められない | 上場会社等では内部統制報告書に対する監査が原則必要。ただし一定の新規上場会社には監査免除の仕組みがある |
| 実務の中心時期 | 定時株主総会に向けた会社法決算スケジュール | 有価証券報告書の提出期限を意識した開示スケジュール |
01. 会社法監査とは
- 会社法監査とは、会社法上の会計監査人が、会社の作成した計算書類等について監査し、意見を表明する制度です。会計監査人になれるのは、公認会計士または監査法人です。
- 会社法は、株式会社の組織、運営、株主総会、役員の責任、計算などを定めています。その中で会計監査人による監査は、経営者が作成した決算情報について独立した第三者が検証し、債権者を含む利害関係者が信頼できるようにする役割を担います。
(1)会社法監査の対象会社
会社法監査が必要になる代表的な会社は、次のとおりです。
- 会社法上の「大会社」(※)に該当する株式会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
- 定款の定めにより、任意に会計監査人を設置する会社
※「大会社」とは
- 大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表上、資本金が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上のいずれかに該当する株式会社をいいます。売上高や従業員数では判定しません。非上場会社でも、この基準に該当すれば大会社となり、原則として会計監査人を置く必要があります。
- 実務では資本金だけを見て判断してはいけません。資本金が5億円未満でも、借入金や社債、買掛金などを含む負債総額が200億円以上なら大会社に該当します。大型投資、M&A、資金調達があった会社は、決算前から判定を確認しましょう。
(2)会社法監査で監査される書類
会計監査人が監査する中心的な書類は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表からなる「計算書類」と、その附属明細書です。会社の状況に応じて作成される連結計算書類も監査対象になります。
ここで、事業報告まで会計監査人が監査すると考えるのは正確ではありません。事業報告とその附属明細書は、監査役、監査役会、監査等委員会などによる監査の対象です。会計監査人は会計監査を担い、監査役等は取締役の職務執行を含む監査を担うという役割分担があります。
会計監査人も事業報告を読み、監査で得た理解との重要な相違などを検討しますが、事業報告そのものに監査意見を出すわけではありません。
(3)会社法監査のスケジュール
会社法監査は、定時株主総会までの会社法決算スケジュールと密接に結びついています。会社は計算書類や事業報告を作成し、会計監査人と監査役等による監査を経て、所定の時期までに株主へ提供します。その後、定時株主総会で報告または承認の対象となります。
取締役会、監査役会、招集通知、電子提供措置、定時株主総会の日程から逆算し、経理・法務・総務が連携して決算計画を作ります。監査報告書の遅れは、株主総会関連の工程全体に影響します。
02. 金商法監査とは
- 金商法監査とは、金融商品取引法に基づく開示書類に含まれる財務計算に関する書類について、公認会計士または監査法人が監査証明を行う制度です。代表例は、有価証券報告書に掲載される連結財務諸表と財務諸表の監査です。
- 金融商品取引法は、企業内容等の開示を整備し、有価証券の取引を公正にし、投資者を保護することを目的としています。投資者は、必ずしも会社と直接の関係を持っているわけではありません。そこで、誰でも閲覧できる開示情報に一定の信頼性を持たせるため、独立した監査人による監査証明が求められます。
(1)金商法監査の対象会社
金商法監査の代表的な対象は上場会社です。ただし、「上場会社だけが対象」と覚えるのは適切ではありません。過去に有価証券届出書を提出した会社や、一定の要件に該当する有価証券の発行者など、非上場でも有価証券報告書の提出義務を負う場合があります。
金商法監査の要否は、上場・非上場だけでなく、自社が有価証券報告書等の提出者に該当するかで判断します。過去の公募・売出しなどが関係することもあるため、難しい場合は専門家へ確認しましょう。
(2)金商法監査で監査される書類
主な監査対象は、有価証券報告書の「経理の状況」に含まれる連結財務諸表と財務諸表です。貸借対照表や損益計算書だけでなく、キャッシュ・フロー計算書、連結包括利益計算書、注記事項など、適用される開示制度に応じた一式が対象になります。
有価証券報告書の経営方針、事業等のリスク、サステナビリティ情報など、非財務情報のすべてに財務諸表と同じ監査意見が付くわけではありません。監査人は「その他の記載内容」を読み、重要な相違や誤りがあると考えられる場合に対応しますが、監査意見の対象とは区別されます。
有価証券報告書は、原則として事業年度終了後3か月以内にEDINETで提出されます。近年は総会前開示も進んでおり、会社は法定期限だけでなく、株主総会日程や開示方針も含めて提出日を設計します。
(3)内部統制報告制度(J-SOX)との関係
上場会社等は、財務報告に係る内部統制を経営者が評価し、その結果を内部統制報告書として提出します。原則として、財務諸表を監査する監査人が内部統制報告書も監査します。一般にJ-SOX対応と呼ばれるのは、この評価・報告・監査への対応です。
ただし、新規上場会社のうち一定の要件を満たす会社は、上場後3年間、内部統制報告書に対する監査の免除を選択できる制度があります。これは内部統制報告書の提出や、内部統制の整備・評価そのものが不要になるという意味ではありません。また、規模の大きい新規上場会社などは免除の対象外となります。
監査対象は、経営者が行った財務報告に係る内部統制の評価です。会社のあらゆる業務や経営判断の妥当性を包括的に保証するものではありません。
03. 会社法監査と金商法監査は何が違うのか
(1)制度の目的と情報利用者が違う
会社法監査は、会社法上の機関設計と計算制度の一部として、株主や債権者を含む利害関係者を意識した制度です。これに対し、金商法監査は、投資者が資本市場で適切な判断を行うための開示制度を支えるものです。
「誰が、何のために読む書類か」の違いが、提供方法、記載内容、監査報告書、スケジュールの違いにつながります。
(2)作成・監査する書類が違う
会社法では計算書類等、金商法では有価証券報告書に含まれる財務諸表等が中心です。両者の数値は多くの部分で一致しますが、表示科目、注記事項、比較情報、連結範囲に関する開示など、要求される内容が完全に同じとは限りません。
会社法の計算書類が完成しても、有価証券報告書がそのまま完成するわけではありません。共通データを整備し、制度別の開示チェックリストで差分を管理します。
(3)公表までの手続と日程が違う
会社法監査は、計算書類等の作成、会計監査人・監査役等の監査、取締役会、株主への提供、定時株主総会という流れで進みます。金商法監査は、有価証券報告書の作成、監査、社内承認、EDINET提出という流れが中心です。
3月決算会社では多くの作業が4月から6月に集中します。決算開始前に統合工程表を作り、会社法版・金商法版・決算短信の成果物と責任者をひも付けます。
(4)内部統制に対する監査の位置付けが違う
会社法にも「内部統制システム」に関する規定があります。大会社等では、取締役の職務執行が法令・定款に適合するための体制や、企業集団の業務の適正を確保する体制などについて、取締役会が基本方針を決定します。
しかし、会社法上の内部統制システムと、金商法上の財務報告に係る内部統制報告制度は同じではありません。会社法監査では、会計監査人が内部統制報告書に対してJ-SOX型の監査意見を表明する仕組みはありません。用語が似ていても、目的、評価範囲、報告方法を分けて理解する必要があります。
(5)監査は重複しても、監査報告書は一つではない
上場会社では、同じ監査法人が会社法監査と金商法監査を担当するのが一般的です。監査人は、年間の監査計画を一体的に組み、内部統制の理解、取引のテスト、残高確認、棚卸立会、会計上の見積りの検討などを共通化します。
それでも、会社法上の会計監査報告と金商法上の監査報告書は、根拠法令も対象書類も異なります。資料を共通化しつつ、各提出物がどの監査に対応するかを明確にします。
04. 会社のタイプ別に必要な監査を整理
| 会社のタイプ | 会社法監査 | 金商法監査・実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 上場会社 | 通常は必要 | 有価証券報告書の財務諸表監査が必要。内部統制報告制度にも対応する |
| 非上場の大会社 | 必要 | 有価証券報告書提出義務がなければ、通常は不要。融資・M&A等の任意監査は別途あり得る |
| 非上場の中小会社 | 機関設計や任意設置がなければ、通常は不要 | 同上 |
| IPO準備会社 | 現在の会社規模・機関設計により判断 | 上場申請に向けた監査、開示体制、J-SOX体制の準備を早期に進める |
- この整理は典型例であり、個別事情によって結論が変わります。特に、非上場会社の金商法開示義務、組織再編直後の大会社判定、外国会社、特定の有価証券を発行する会社などは、一般論だけで判断しないことが重要です。
(1)上場会社
上場会社は通常、両方の監査を受けます。決算短信、招集通知、内部統制報告書も短期間に作るため、基準データと修正時の反映責任者を決め、書類間の不一致を防ぎます。
(2)非上場の大会社
非上場の大会社は会社法監査の対象です。親会社の連結監査で手続を受けていても、子会社自身の法定監査の要否は別に判定します。対象になれば、会計監査人の選任、登記、監査契約などを準備します。
(3)IPO準備会社
IPO準備会社は、監査実績、会計方針、決算早期化、関連当事者取引、開示、IT統制を含むJ-SOX対応を複数年度で準備します。会社法監査を受けていても、金商法水準の注記や連結開示、内部統制評価の文書化が追加で必要です。
05. 実務で押さえるべき7つのポイント
(1)毎期、監査の要否を判定する
上場の有無だけでなく、大会社の数値基準、機関設計、有価証券報告書の提出義務を確認します。増資、減資、大型借入、社債発行、M&Aなどがあった年度は、前期の結論をそのまま使わないことが大切です。
(2)法定成果物を最初に一覧化する
計算書類、連結計算書類、事業報告、有価証券報告書、内部統制報告書、決算短信などを一覧にし、作成責任者、レビュー者、監査対象かどうか、承認機関、提出・提供日を記載します。対象範囲が見えると、資料の抜け漏れを防ぎやすくなります。
(3)一つの決算数値を一元管理する
複数の開示書類を別々の表計算ファイルで作ると、修正漏れが起きやすくなります。連結パッケージや開示システムの数値を基準データにし、修正履歴と反映先を管理します。手作業の転記箇所は、二者確認の対象にします。
(4)会社法用と金商法用の差分表を持つ
共通項目を再利用するだけでなく、表示、注記、比較情報、開示時点の違いを差分表にします。前年の差分表を更新すれば、制度改正や新規取引による変更点も把握しやすくなります。
(5)監査役等と会計監査人の役割を分けて連携する
会計監査人は会計監査、監査役等は取締役の職務執行を含む監査を担います。両者は、監査計画、重要な会計上の見積り、不正リスク、内部統制の不備、監査上の主要な検討事項などについて連携します。会社側は、報告経路と会議日程を整えておく必要があります。
(6)J-SOXは経理部門だけの業務にしない
販売、購買、在庫、IT、人事、子会社管理など、財務報告に影響する業務は全社に広がっています。評価範囲の決定、業務記述書の更新、統制の実施証跡、発見した不備の改善を、部門横断で進めることが重要です。
(7)変更は早めに監査人へ相談する
企業結合、事業売却、新会計システム導入、収益認識の変更、海外子会社の増加などは、会計処理だけでなく監査範囲や内部統制評価にも影響します。決算直前では選択肢が限られるため、取引の検討段階から論点を共有します。
06. よくある誤解
「同じ監査法人が見るなら、監査は一つ」
監査手続は効率的に統合されますが、会社法監査と金商法監査は別の法制度です。対象書類と監査報告書を区別し、契約内容や監査報告書発行日も確認する必要があります。
「上場会社は金商法監査だけでよい」
通常は会社法監査も必要です。上場会社は、株主総会に向けた会社法決算と、投資者向けの金商法開示を並行して進めます。
「非上場会社には法定監査がない」
非上場でも、大会社や一定の機関設計を採用する会社は会社法監査の対象です。また、非上場でも金商法上の継続開示義務を負う場合があります。
「適正意見なら、不正や倒産の可能性はない」
監査は、財務諸表に重要な虚偽表示がないかについて合理的な保証を得る手続です。すべての不正を必ず発見する保証や、将来の存続・業績を保証するものではありません。
「内部統制監査は、会社のすべての管理体制を保証する」
金商法上の内部統制監査は、財務報告に係る内部統制について経営者が行った評価を対象とします。業務効率、法令遵守、情報セキュリティなどが関係することはありますが、企業経営の全領域に個別の保証を与える制度ではありません。
「監査役と会計監査人は同じ役割」
監査役等は取締役の職務執行を監査し、会計監査人は計算書類等の会計監査を担当します。名称に「監査」が含まれていても、資格、選任、監査範囲、報告先が異なります。
07. FAQ
Q1.会社法監査と金商法監査は、どちらが厳しいですか?
単純に優劣は付けられません。合理的な保証を得る点は共通しますが、対象書類、開示要求、利用者、日程が異なります。金商法は開示項目が広く、内部統制報告制度もあるため、会社側の対応範囲が広く見える傾向があります。
Q2.資本金が5億円未満なら、会社法監査は不要ですか?
そうとは限りません。負債総額が200億円以上なら大会社に該当します。また、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社、任意に会計監査人を設置した会社など、資本金・負債基準以外の理由で会社法監査が必要になる場合があります。
Q3.任意監査を受けていれば、法定監査の代わりになりますか?
自動的には代わりになりません。任意監査は、契約で定めた財務情報と目的に応じて行われます。会社法または金商法の法定要件を満たすには、対象書類、監査人の資格、選任手続、監査報告書などが法令に適合している必要があります。
Q4.会社法監査だけを受けている会社がIPOを目指す場合、何が増えますか?
金商法水準の財務諸表・注記、開示体制、決算早期化、J-SOXの整備・評価、上場申請の監査対応が加わります。監査法人と主幹事証券会社に早めに相談し、複数年度の計画を作ります。
Q5.会社法上の内部統制システムを整備すれば、J-SOX対応は完了しますか?
完了しません。重なる要素はありますが、J-SOXでは、財務報告に係る内部統制の評価範囲を定め、統制を文書化し、整備・運用状況を評価し、不備を判定して内部統制報告書を作成します。会社法の基本方針決議だけでは足りません。
Q6.監査が不要な会社でも、監査を受けるメリットはありますか?
金融機関への説明、M&A、IPO、経理体制の改善などの目的で任意監査を利用できます。費用と社内負担も生じるため、目的と対象範囲を明確にして契約します。
08. 実務チェックリスト
- 自社が会社法上の大会社に該当するか、最終事業年度の貸借対照表で確認した
- 資本金だけでなく、負債の部の合計額も確認した
- 自社の機関設計から、会計監査人の設置義務を確認した
- 有価証券報告書等の提出義務の有無を確認した
- 会社法と金商法それぞれの監査対象書類を一覧化した
- 計算書類、事業報告、有価証券報告書、決算短信の差分と整合性を管理している
- 取締役会、監査役等、招集通知、株主総会、EDINET提出を含む統合工程表を作成した
- J-SOXの評価範囲、文書化、運用評価、不備改善の責任者を決めた
- M&A、資金調達、組織再編、システム変更を早期に監査人へ共有した
- IPOを予定する場合、監査・開示・内部統制の複数年度計画を作成した
09. まとめ
- 会社法監査と金商法監査の違いは、単なる「非上場会社向け」と「上場会社向け」の区分ではありません。前者は会社法上の計算制度と機関設計を、後者は投資者向け開示と資本市場の信頼を支えます。
- 上場会社では通常、二つの監査を同じ監査法人が効率的に進めますが、対象書類、監査報告書、社内承認、公表方法は区別して管理する必要があります。非上場会社でも、大会社に該当すれば会社法監査が必要になり、有価証券報告書提出会社に該当すれば金商法監査が関係します。
- まず自社の会社規模、機関設計、開示義務を確認し、必要な成果物と期限を一つの工程表に落とし込みます。制度の違いを理解すれば、重複を減らし、決算・開示の品質を高められます。迷う場合は監査法人や法律・開示の専門家へ早めに相談しましょう。
REFERENCES