会社法監査が必要になる主な会社
| 区分 | 会社法監査の要否 | 主な確認ポイント |
|---|---|---|
| 大会社 | 必要 | 最終事業年度の貸借対照表で、資本金5億円以上または負債合計200億円以上 |
| 監査等委員会設置会社 | 必要 | 規模にかかわらず会計監査人が必要 |
| 指名委員会等設置会社 | 必要 | 規模にかかわらず会計監査人が必要 |
| 任意に会計監査人を置く会社 | 必要 | 定款・株主総会・登記など、会社法上の機関設計として設置しているか |
| 上記に該当しない一般的な中小株式会社 | 通常は不要 | ただし、任意監査、金融機関・株主・契約上の要請が別途あり得る |
01. まず押さえるべき結論
- 会社法監査が必要かどうかを判断するときは、最初に「自社が会計監査人を置かなければならない会社か」を確認します。会社法上、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならず、会社の計算書類とその附属明細書について、独立した立場から監査を行います。
- 実務で最も多い判定ポイントは「大会社に該当するか」です。会社法上の大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表上、資本金が5億円以上である会社、または負債の部に計上した額の合計が200億円以上である会社をいいます。資本金基準と負債基準は「または」です。したがって、資本金が1億円であっても、借入金や社債、買掛金などを含む負債合計が200億円以上であれば、大会社に該当します。
- また、大会社でなくても、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社を選択している株式会社は、会計監査人を置かなければなりません。これらはガバナンス体制を強化するための機関設計であり、会計監査人の設置がセットで求められます。
- 要するに、会社法監査の要否は「上場しているかどうか」だけで決まるものではありません。非上場会社でも、資本金や負債の規模が大きければ対象になります。一方で、上場会社の場合は会社法監査に加えて、金融商品取引法に基づく監査も必要になります。両者は似ていますが、根拠法令、対象書類、提出先、監査報告書の位置づけが異なるため、混同しないことが大切です。
02. 会社法監査とは何を監査するものか
- 会社法監査とは、一般に、会社法の規定に基づいて作成される計算書類等について、会計監査人が適正性を監査する制度を指します。ここでいう計算書類には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表などが含まれます。会社の規模や機関設計によっては、連結計算書類が問題になることもあります。
- 会計監査人設置会社では、計算書類とその附属明細書は、会計監査人の監査を受けます。一方、事業報告とその附属明細書については、監査役、監査等委員会または監査委員会の監査対象となります。つまり、会計監査人は会社のすべての書類を同じ範囲で監査するわけではありません。会計数値を中心とする計算関係書類を主な対象とし、会社の財政状態や経営成績が会計基準や法令に照らして適正に表示されているかを検討します。
- この点は、税務申告のチェックや月次決算のレビューとは性質が異なります。税務の目的は、課税所得や税額を正しく計算することです。これに対して、会社法監査の主な目的は、株主や債権者など、会社と利害関係を有する者に対して、会社の財務情報の信頼性を高めることにあります。特に大会社では、多額の出資や融資、取引信用が存在するため、経営者が作成した決算書を独立した第三者が監査する必要性が高いと考えられています。
03. 会社法監査が必ず必要になる会社
- 会社法監査が法的に必要になる会社は、次の三つに整理できます。
大会社
大会社は、公開会社であるか非公開会社であるかを問わず、会計監査人を置く必要があります。公開会社である大会社については、監査役会と会計監査人の設置が求められます。ただし、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社を選択している場合は、それぞれの機関設計に従います。非公開会社である大会社についても、少なくとも会計監査人を置く必要があります。
監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社は、取締役の中から監査等委員である取締役を選任し、取締役会の監督機能を高める機関設計です。この形態を選ぶ会社は、規模にかかわらず会計監査人を置かなければなりません。
指名委員会等設置会社
指名委員会等設置会社は、指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置き、業務執行と監督を分離する色彩の強い機関設計です。この会社も、会計監査人の設置が必須です。
- これらに加えて、会社が自ら定款で会計監査人を置くことを定めた場合も、会社法上の会計監査人設置会社になります。この場合、法律上の強制ではなく任意の選択として始まりますが、いったん会計監査人設置会社になれば、会社法上の手続に従って会計監査人を選任し、監査を受ける必要があります。
04. 大会社の判定で見落としやすいポイント
- 大会社の判定は、一見すると単純です。資本金5億円以上、または負債200億円以上という二つの数値を確認すればよいからです。しかし、実務ではいくつかの見落としが起きやすい点があります。
資本金だけを見てしまうこと
中堅企業や成長企業では、資本金は1億円以下に抑えられていても、借入金、社債、リース債務、仕入債務、未払金などの負債が大きくなることがあります。会社法上の大会社判定では、負債の部の合計額を見るため、金融機関借入だけでなく、貸借対照表に表示される負債全体を確認する必要があります。
いつの貸借対照表で判定するのかという点
大会社該当性は、最終事業年度に係る貸借対照表に計上された金額を基準に判断します。したがって、期中に増資や大型借入があったからといって、その瞬間に直ちに大会社としての手続がすべて発生するわけではありません。通常は、決算を確定し、定時株主総会で貸借対照表が承認または報告される流れの中で、次年度以降の対応を具体化します。もっとも、監査契約、会計監査人候補者の選定、定款・登記・株主総会議案の準備には時間がかかるため、基準に近づいた段階で早めに検討を始めるべきです。
負債200億円の基準を「有利子負債だけ」と誤解すること
会社法上の文言は、貸借対照表の負債の部に計上した額の合計です。銀行借入や社債だけではなく、買掛金、未払金、賞与引当金、退職給付引当金など、貸借対照表上の負債項目全体を含めて確認します。
グループ全体の規模と単体の判定を混同すること
大会社の基本判定は、当該株式会社単体の最終事業年度の貸借対照表を基準に行います。親会社グループ全体では大きな規模であっても、個々の子会社が直ちに大会社となるとは限りません。反対に、単体では売上規模がそれほど大きくない会社でも、資金調達や投資の状況によって負債合計が200億円以上となれば、大会社に該当する可能性があります。
05. 「公開会社」、「上場会社」、「非上場会社」の混同に注意
- 会社法監査の説明で誤解されやすいのが、「公開会社」という言葉です。会社法上の公開会社は、証券取引所に上場している会社という意味ではありません。発行する全部または一部の株式について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定めを置いていない株式会社をいいます。つまり、非上場であっても、定款上、譲渡制限のない株式を発行できる会社であれば、会社法上は公開会社に該当します。
- この区分は、機関設計に影響します。公開会社である大会社は、原則として監査役会と会計監査人を置く必要があります。一方、非公開会社である大会社は、会社法上、少なくとも会計監査人の設置が必要です。実務上は、既存の機関設計、株主構成、金融機関や取引先の要請、上場準備の有無などを踏まえて、監査役、監査役会、監査等委員会などの体制を整理することになります。
- 上場会社については、別の観点も必要です。上場会社は、会社法に基づく監査だけでなく、金融商品取引法に基づく監査を受けるのが通常です。金融商品取引法監査では、有価証券報告書などに含まれる財務諸表が監査対象となり、内部統制報告制度との関係も論点になります。会社法監査と金融商品取引法監査は同じ会計監査人が担当することも多いものの、根拠法令と対象書類が異なります。非上場の大会社では会社法監査だけが論点となるケースもあるため、「上場していないから監査は不要」と考えるのは危険です。
06. 任意で会計監査人を置く会社もある
- 会社法は、一定の要件を満たす会社に会計監査人の設置を義務付ける一方で、それ以外の株式会社にも、定款の定めによって会計監査人を置くことを認めています。たとえば、IPOを目指す会社、ベンチャーキャピタルや金融機関から強いガバナンスを求められている会社、M&Aや事業承継を見据えて決算の信頼性を高めたい会社などでは、大会社に該当する前から会計監査人を設置することがあります。
- ここで重要なのは、「任意に監査法人や公認会計士へチェックを依頼すること」と「会社法上の会計監査人を設置すること」は同じではないという点です。定款に会計監査人を置く旨を定め、株主総会で会計監査人を選任し、登記などの会社法上の手続を行っている場合には、会社法上の会計監査人設置会社となります。一方、定款上の機関としては置かず、監査法人や公認会計士と任意の業務契約を結んで決算書の確認を受けるだけであれば、会社法上の会計監査人設置会社とはいえません。
- この違いは、監査報告、株主総会手続、登記事項、監査役等との連携、責任関係に影響します。対外的な信用を高める目的で任意監査を受けるのか、会社法上の機関として会計監査人を置くのかは、導入前に明確に整理しておく必要があります。
07. 会社法監査が必要になりそうな会社の実務対応
- 会社法監査の対象になりそうな会社は、決算が終わってから慌てて対応するのではなく、少なくとも数か月前から準備を始めるのが望ましいです。監査法人や公認会計士は、監査契約を締結する前に、独立性、受嘱リスク、会社の内部管理体制、過年度決算の状況などを確認します。会社側も、監査に必要な資料を整備し、会計処理の論点を整理し、決算スケジュールを見直す必要があります。
- まず確認すべきなのは、直近の貸借対照表です。資本金が5億円以上になっていないか、負債合計が200億円以上になっていないかを確認します。基準に近い場合は、翌期の資金調達計画、設備投資計画、借入返済予定、増資予定も含めて検討します。特に負債基準は、短期間で大きく変動することがあります。
- 次に、定款と登記を確認します。会計監査人を置く旨の定款規定があるか、現在の機関設計がどうなっているか、取締役会や監査役の有無、監査役会の要否、監査等委員会や指名委員会等への移行予定があるかを把握します。大会社に該当する場合、単に監査法人と契約すれば足りるわけではなく、会社法上の機関設計として会計監査人を適切に置く必要があります。
- さらに、監査を受けられる決算体制を整えることが重要です。具体的には、月次決算の早期化、勘定科目内訳の整備、固定資産台帳・棚卸資料・債権債務残高確認の準備、関連当事者取引の整理、重要な会計方針の文書化、見積項目の根拠資料の整備などが挙げられます。監査初年度は、過年度の会計処理や期首残高の検討も必要になるため、会社側の負担が大きくなりがちです。
- 最後に、株主総会スケジュールとの整合性を確認します。会計監査人の選任、計算書類の監査、監査報告の受領、取締役会承認、株主総会への提出・報告という流れを踏まえ、決算日から定時株主総会までの工程を逆算する必要があります。監査対応は経理部門だけの仕事ではなく、経営者、取締役、監査役等、法務、総務、税務担当者が連携して進めるべきテーマです。
08. よくある誤解
「中小企業だから会社法監査は関係ない」
たしかに、多くの中小企業は大会社に該当せず、会計監査人も設置していないため、会社法上の会計監査人監査は不要です。しかし、資本金を抑えていても負債合計が200億円以上になれば大会社です。不動産業、投資業、商社、製造業、グループ内金融機能を担う会社などでは、売上や従業員数の印象だけで判断しない方がよいでしょう。
「税理士に決算を見てもらっているから監査は不要」
税理士による税務申告や会計支援は重要ですが、会社法上の会計監査人監査とは制度が異なります。会計監査人になれるのは、公認会計士または監査法人です。税務顧問契約があることだけで、会社法監査を受けたことにはなりません。
「非上場なら会計監査人はいらない」
会社法監査の要否は、上場の有無ではなく、会社法上の大会社該当性や機関設計によって決まります。非上場会社でも、大会社であれば会計監査人の設置が必要です。
「任意監査を受けているから会社法上も問題ない」
任意監査は、契約に基づいて一定の目的で実施されるものです。会社法上の会計監査人として選任されているかどうか、定款・株主総会・登記などの手続が整っているかどうかは、別途確認する必要があります。
09. まとめ
- 会社法監査が必要な会社は、端的にいえば、会社法上の会計監査人を置かなければならない会社です。代表例は、大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社です。特に大会社の判定では、資本金5億円以上だけでなく、負債合計200億円以上という基準がある点が重要です。
- また、会社法上の公開会社は上場会社を意味しません。非上場でも公開会社に該当することがあり、非上場でも大会社であれば会社法監査が必要になります。反対に、規模が大会社に満たない会社でも、定款で会計監査人を置くことを選択すれば、会社法上の会計監査人設置会社として監査を受けることになります。
- 実務上は、貸借対照表の数値、定款、登記、機関設計、株主総会スケジュールをセットで確認することが欠かせません。会社法監査は、単に監査報酬が発生するという話ではなく、会社の決算体制、内部統制、ガバナンス、対外的信用に関わる重要な制度です。基準に近づいている会社や、上場準備・資金調達・M&Aを予定している会社は、早い段階で会計監査人設置の要否と準備事項を確認しておくことをおすすめします。
CHECK LIST
自社で確認したいチェックポイント
- 直近の貸借対照表で、資本金5億円以上または負債合計200億円以上に該当しないか。
- 翌期以降の増資、借入、社債発行、大型投資により基準を超える見込みがないか。
- 定款に会計監査人、監査役会、監査等委員会、指名委員会等の定めがないか。
- 会社法上の公開会社に該当するか。上場会社かどうかとは別に確認する。
- 会計監査人候補者の選定、株主総会議案、登記、監査スケジュールを早めに準備しているか。
- 任意監査や税務顧問業務と、会社法上の会計監査人監査を混同していないか。
REFERENCES